HITOMA / ZUANSHITSU
長野県上田盆地の隅に佇む築100年の古民家。その時間の層を受け継ぎながら、グラフィックデザイナーとパン職人の夫婦のための新しい活動を営む場として再生する計画である。
パン屋にあたる1階は、もともと床上げされていた居室部分の床板や束を取り払い、既存土台上端のレベルまで下げて小麦など日々扱う重量物の運搬を容易にするため新しく土間打ちを施した。かつて掃き出し窓であった開口をパン屋調理室のエントランスとしている。壁は新たに大壁とし、抽象度の高い白塗装仕上げとした。天井には予めアルミ箔が貼付された断熱パネルを張り込み、オーブンから発せられる熱の影響を軽減させる環境的役割を与えながら、アルミの柔らかな反射が空間に淡い広がりをもたらす。パネルのスリットに流したライン照明は室内に均質な光を提供している。玄関からアクセスした来客を迎えるのはパンが陳列したガラスショーケースである。ショーケースが据えられたその箇所はかつての上がり框にあたり、内と外が交わる場をゲストとホストが向き合う場として再解釈した。
階段を上がるとうねりを持つ大きな梁が掛かる小屋組みが現れる。この力強い架構の下に大小のテーブルが島のように点在するイートインスペースと、ポリカーボネートのスクリーンで緩やかに仕切られたグラフィックデザイン事務所のオフィスを配置した。1階とは対照的に、天井の現し、床板、真壁の漆喰など既存のエレメントはほとんどそのまま残し、最小限の造作で場を作ることを意図している。
オフィスとイートインを隔てる本棚は、スクリーン同様に背板を中空ポリカとし、天井を閉じないことで気配だけは行き交う緩やかな分節を試みた。建物北側の連窓から入る順光は、ポリカのスクリーンを通してさらに拡散し、直射を嫌うオフィスに静かな明るさをもたらしている。
風土が育んだ古民家の持つ時間が織りなす質感に対し、クリーンでニュートラルな空間を挿入することで旧と新が互いを補完し合う環境を整えた。ここからまた新しい営みの時間が折り重なり、地域に根差した豊かな活動の場になることを期待する。
Client 水野図案室
Construction 石井工務店株式会社
Photo Nobutada Omote
















